女はみんな、喜怒哀楽のいずれかを生きている【斎藤薫】

女はみんな、喜怒哀楽のいずれかを生きている【斎藤薫】

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 今月のテーマは"女はみんな、喜怒哀楽のいずれかを生きている”について。毎月第2水曜日更新。

女は、4つの感情を目まぐるしく入れ替えながら生きている

「セックス・アンド・ザ・シティ」……あなたもかつて、ハマっただろうか。NYを舞台に、4人の女性が繰り広げる“恋愛人生ドラマ”。何より4人の“会食おしゃべり”が可笑しくも奥深く、日本でも大ヒットした成功要因は、まさにそこにあったと言っていい。4人の誰かに起こった問題を、まるで会議にかけるようにテーブルに載せ、あーでもないこーでもないと意見を戦わせる。そこには常に女の喜怒哀楽があって、みんな一緒になって喜んだり怒ったり……。究極の女子会を覗き見ている私たちを興奮させた。 

女の喜怒哀楽……まさに、泣いたり笑ったり、女の感情は常に忙しい。この女子会はさらなるスピードで4つの感情が入れ替わるさまを見せてくれたわけで、だからふと思った。これが3人だったりしたら、ここまでヒットしただろうかと。女の喜怒哀楽は、やっぱり女が4人いなければ、本当のところを描けないはずと。 今はあまり読まれないのだろうか。少女小説の金字塔『若草物語』 ……日本文学の中にも、4姉妹が登場するし、こじらせ女子ドラマ、「ガール」も4人。やはり4人の女が“女の喜怒哀楽”を描ける重要な手段だったからではないか。“てんでバラバラ”な4人が、女の四隅をきっちり描くと、見ているものの感情が必ずどこかと同期するから常に共鳴が続くのだ。

SATCの4人を無理矢理当てはめると、喜怒哀楽の“喜ぶ”の分野を担当するのが、PR会社の社長で、自由奔放、性の快楽を追求し続けるサマンサ。“怒る”を担当するのは、弁護士であるミランダ。人格者だけれど、何だかいつも怒っている。“哀しむ”のは、やはりヒロインのキャリー。女性の生き方を語るライターという立場からも、恋愛至上主義者としても、常に心が揺れ、憂えている。そして、“楽しむ”を象徴するのは、幸せ願望が誰より強いテンネンな主婦、シャーロットだろう。その4人が様々なテーマについて、一緒に喜怒哀楽するからこそ、女の喜怒哀楽がまんべんなく上手に描かれるという仕組み。そういう意味であまりによくできたドラマ。過激なセックス描写が平然と入り込むのに、恋人のいる人にもいない人にも、結婚している人にもしていない人にも、ぐるりと見事な共感を生んだのはそのせいだろう。 

でも、現実の世の中はもっと明快だ。いつもニコニコ笑顔を絶やさない“喜ぶ女”がいるかと思うと、なんだかいつも怒っていて、文句を言っている“怒る女”がいる。一方でいつもいつもクヨクヨ全てを後ろ向きに考えてしまう、 “哀しむ女”もいる。逆に何でも前向きに考え、何でも楽しめてしまう、“楽しむ女”も。もちろんみんなの心の中に喜怒哀楽の全てがある。顔の表情にも喜怒哀楽の全てがある。しかし他者から見ると、女は○○な女という風に喜怒哀楽のどれか一つに偏って見えてしまうのだ。それも、社会は人のイメージを簡略化しようとする。この人いつも笑ってるよね。この人いつも怒ってるよね。そう決めてしまう方が楽だから。その方が人間を整理しやすいし、記憶しやすいから。誰かを思い出したときに、笑顔しか浮かばない、仏頂面しか浮かばない。それもまた、そうやって人々のイメージが整理され、記憶されているからなのだ。

改ページ:[ 喜怒哀楽が上手な女性とは? ]

笑顔の女より、喜怒哀楽が上手な女に

例えば総選挙が終わったばかりのAKB系アイドルたちも、遠目から見ると、申し訳ないけれど、それぞれ一つの顔ばかりが思い出されてしまう。トップを張ってきたメンバーを思い出してみても、例えば、高橋みなみは、立場上いつもなんとなく怒っていて、前田敦子はナーバスなイメージが魅力という特殊なタイプだから、もっぱら哀しそうな顔が浮かんでくる。一方、いつもにっこり楽しそう、あんまり悩みがなさそうだったのは、小嶋陽菜。アイドルなのに笑顔に計算がないところが、いかにも楽。そして最後になったが、喜怒哀楽の喜は、戦い終わって引退を宣言したばかりの渡辺麻友が、象徴していると言っていい。 

ちなみに喜と楽は、一見違いがわかりにくいが、実は明快な違いがある。「楽」は、何でも楽しめる、だから人生を案外楽々生きられるのに対し、「喜」は、単純な喜びに加え、さまざまに喜ぶ努力をすると言ってもよく、結構気苦労の多いタイプ。特にアイドルの場合は自分を応援してもらっていることへの喜びを相手に大げさに表現し、相手を喜ばせつつ、自分自身の喜びにつなげている。ファンサービスに勤しむ、いかにもアイドルな笑顔は、喜の象徴。だからいつもニコニコ、アイドルとして努力の人でもあると言われる“まゆゆ”は、まさにこの喜び枠に入るのだ。 

ともかくそういうふうに、女の喜怒哀楽を象徴する様々なタイプを一堂に集め、男子のみならず女子の心にも届けようとしたのがAKBだったと言ってもいい。総選挙のスピーチなど喜怒哀楽の絶叫だもの。じゃあ3連覇を果たした指原莉乃は? 言うなれば彼女こそ、喜怒哀楽を大量に全てまんべんなく持っているタイプと言ってもいい。表情豊かで、表現力豊かなせいもあるけれど、一つの顔だけ特化して浮かんでくることはない。いろんな顔が同時にイメージできるのだ。 

ただこういう見え方は、あくまでハイリスク・ハイリターン。誰にでも喜怒哀楽があるけれど、それを全て人に見せるかどうかは別の話。「あの人、喜怒哀楽が激しい人よね」は決して褒め言葉ではない。感情をむき出しにする女、の言い換えに他ならないから。特に怒りは一度見せてしまうとあとでいくらニコやかにしていても怒る女のレッテルは消えない。哀しみは女を面倒臭い女に見せて、どちらにしても周りの人を遠ざける。上手に生きたいならば、喜と楽だけ顔に出していればいいわけで、実際笑顔しか浮かばない女性になることは、女にとって普遍的なテーマなのだ。「だけど彼女、目は笑っていないよね」などと陰口を叩かれずに、ちゃんと笑顔だけを人の心に刻みつけられれば、これは理想だ。 

ただその上を行くのが喜怒哀楽が上手な女、喜怒哀楽の全てを表に出しているのに、その一つ一つが説得力をもって人の心を捉える人になれたら、さらに理想的なのかもしれないとそう考えてみた。 

一般論として、日々幸せなこと、生きていること自体を喜び、怒る時は正義感で怒り、哀しむ時は人の痛みに哀しみ、いつも前向きな心で日々を楽しむ……そんな喜怒哀楽が紡げれば、それに越したことはない。笑顔だけの女より、やっぱり濃厚な魅力を放ち、4倍の引力で人を惹きつけるのだろう。ましてやそのバランスがちゃんと取れていれば、一つのイメージに偏ることなく、人として自然体にして成熟して見え、良い意味で明け透けに見える。指原莉乃の場合も、アイドルでありながら、人工的でないから、 誰もがその人間性を覗け、必然的に喜怒哀楽の全てが丸見えな気がして、余計に人を惹きつけたということなのかもしれない。とてもリスキーな生き方だが成功すれば実りはあまりにも大きい。結果として、3連覇というゆるぎない人気を得たのだろう。 

さあ、あなたは喜怒哀楽のどの感情が強い女なのか、一度冷静に見極めたい。世間に喜怒哀楽のどの女に見られているのか、ちゃんと見極めておきたい。 そしてできるなら喜怒哀楽が上手な女になりたい。人の4倍の引力を目指して。

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