笑う女と笑わぬ女。それぞれに生きる道あり【齋藤薫】

笑う女と笑わぬ女。それぞれに生きる道あり【齋藤薫】

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 今月のテーマは”笑う女と笑わぬ女。それぞれに生きる道あり"について。毎月第2水曜日更新。

笑わない女が笑わずとも成功できるのは一体なぜなのか

今さら蒸し返してナンだけど、自分が主演する映画の舞台挨拶で、周りが凍りつく不機嫌さで「別に」と言った人は、考えてみればとてつもなく勇敢だった。まさにいきなり大ブレイクした人だから、若さと驕りがそうさせたという見方が一般的だったが、それにしてもあの言動で損をするのは火を見るより明らかで、既に演技派としての評価も得ていた才能ある人の判断としては、不可解すぎる。 

あの日の奇抜なファッションに対し、関係者から何らかの発言があったことが原因との見方もあるが、いつもにこやかに愛想を振りまくことへの抵抗がもともとあってのことだったかもしれない。こういう場でにっこり笑うのは簡単だ。じゃあそんな簡単なことをさせない力って何なのか? と逆に考えてみた。 

もちろんあの場面であの言動は、100%間違っている。世の中そもそも笑顔至上主義。にこやかならば何でも通る。毎日機嫌が良ければ、基本全てうまくいくというほどに。だから逆に笑わない人、不機嫌な人の生態を覗きたくなったのだ。 

世界一笑わないセレブとして名高いのが、ヴィクトリア・ベッカム。この人が笑うとそれ自体がニュースになるほど、徹底して笑わない。しかしヴィクトリアは、大成功している。いわゆる人気商売と言ってもいいブランド・ビジネスにおいて、ここまで笑わずに、ここまで成功した人はいないだろうというくらいに。 

いや、百歩譲ってファッション・ビジネスに愛想はいらないのかもしれないと思うのは、『プラダを着た悪魔』の世界が本当だとすれば、カリスマ編集長はおよそ笑うことなく、あそこまでの成功を収め、生きる伝説となったわけで、それを〝女の世界の奇跡〞と片付けてしまうのは早計にすぎるのかもしれない。実力があれば笑顔はいらないの? やっぱりその疑問に行き着いてしまうのだ。 

私はあくまでも、笑顔至上主義を信じたい。笑顔がなければ本当の意味での人とのコミュニケーションは成立しないと考えたいタチ。いやそれ以上に、笑顔は自分自身の心身の巡りも良くするという効能自体を信じている。"笑顔がナチュラルキラー細胞を活性化して免疫力を高める"という話はもちろんだけれど、実はもっともっと重要なのが、笑顔が自分の心を柔軟にし、前向きにし、ほとんど一瞬で善い人にしてしまう、精神面でのとてつもない美容効果があること。心を浄化して、柔らかく素直にして、活力を与え、輝かせる……まさに即効スーパーコスメのような力を持っていること。 

ちょっと想像してみてほしい。朝の出勤時、不機嫌に仏頂面で挨拶もせずに席に着いた日は、一日中、"イヤな女"でいなければいけないこと。少なくとも昼休みなどで自分のイメージを切り替えるチャンスがなければ、ずっと。笑わないと見た目だけでなく、心までささくれ立つ。笑わない女は筋肉が固まってもっともっと笑えなくなり、だから心も頑なに歪んでいき、どんどん不機嫌でネガティブな女を作っていく。これだけはもう間違いないのだ。ちょっとでも笑ってしまえれば、たちまち心優しい女になれるのに。

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一方で奇跡の笑顔は、岩をも通す

で、運命における笑顔の力を改めて思い知らせているのが有村架純という人。ご本人も普通と言われることに何の抵抗もないと言っているので、心置きなく言わせてもらうと、これほど"普通が凄い"人もいないと思う。尋常じゃない人気は説明するまでもないだろうが、2年連続で紅白歌合戦の司会に抜擢されることも、普通じゃない。演技が上手いこととは別の才能。1回なら話題性で説明できるが2回目があったのはとてつもない潜在能力の表れ。頭の良さ、瞬発力、度胸、空気を読むバランス感覚、いずれも普通じゃないことを決定づけた。見た目の普通さとのギャップはいっそ衝撃的。でもよくこんな逸材を探し出せたもの。いかに可愛いからといっても、この人の絶対的特徴である普通さを考えると、海岸の砂の中で粒ダイヤの原石を見つけるようなもの。オーディションで発掘されたというが、何が決め手で選ばれたのか? なんでもテレビを見ていて、いつも「私ならこう演じる」と思っていて応募したというが、そういう想いだけで女優になれるはずもなく、この人を発見させたのは、やはり顔、あの小動物みたいな"笑顔"なのだろう。 

この人の笑顔の愛くるしさはほとんど奇跡的であり、絶世の美女もパンダも敵わない引力を持っている。全員を幸せにする力で言えば、10年に一度出るか出ないかの笑顔。自分の才能に気づかせるためのツールとしてこれ以上のものはない。笑顔って破壊的な力を持っているのだと、改めて思い知らされた。 

そう考えるとよけい、ヴィクトリア・ベッカムは、それほどのアドバンテージを放棄しているのだから逆に大したもの、と思えてくる。この人が笑わずに大きな成功を得た要因って、一体どこにあるのか。不思議なことにこの人は、全く笑わず不機嫌な顔をしながら、いつの間にか理想的な家庭を作ってしまった。偶然か必然か、夫の浮気話が出るたびに子供が増えて、計4人。この子供たちが幼い頃からモデルをやらされたりしても素直で優しい子に育ったことは欧米でも高い評価を得ていて、何より、実はどんくさかった夫を唯一無二の"カリスマ・セレブ"に育てたのもこの妻。今や妻なしでは生きていけないくらいになっているらしく、家庭プロデューサーとしても天才だ。"スパイス・ガールズ"では一番目立たなかった人が、結果として一番脚光浴び、最強の幸せを手に入れている。いくら不機嫌でも、家庭円満、母として妻として優秀ならば世界は拍手をするのだ。ちゃんと愛情はある女だってわかるから。 

まさに『アナ雪』の雪の女王。すべてを凍らせるのに、愛情だけで氷を溶かす力が同時に備わっていれば、笑わなくたって許されるということ? ちなみにこの人は自分の笑顔が嫌いだというから、笑わないのは一つの美意識の表れ。かつてまだ赤ちゃんだった末娘を小脇に抱え、片方の手を服のポケットに入れてモデル歩きをしたことが大批判を浴びたが、実はあれもパパラッチの存在に気づいたから、赤ちゃんを小脇に抱え直してポーズを鏡でチェック、おもむろに登場したのだとか。彼女にとってはカメラの前こそ我が家をアピールする場。4人の子供を産んでも生活感ゼロ、モデルのような自分をアピールすることが家族の幸せに通じるからと、まさに体を張ったスキのない努力、あくなき野心。笑わない代わりに、相当大きなものを自らに課している本気の女なのだ。 

笑わなければ嫌われることなど百も承知。覚悟の上でそれを上回る実績を作っている。笑えない女は、いっそ雪の女王になるしかないのだ。つまり才能や実力をそびえ立たせ、笑わずとも周りがひれ伏すような存在になる以外ない。周りを凍りつかせるほどの威圧感が通用するほどの力を宿してこそ、笑えない女の存在意義がある。絶対失敗しない女、〝ドクターX〞が異様に受ける理由もそこにあるのかもしれない。笑わなくても済むくらい、やることをやってのける女は、忖度しあい、ヘラヘラしながら権力を振りかざすような男たちよりもよほど頼りになるから。 

水が一滴もない過酷な環境で、それでも花を咲かせる無敵の生命力を持つ花が存在すること、それも地球の奇跡ではなく、与えられた環境で力を蓄えていく命のたくましさを示している。なんだかそういう強さを持てたら素晴らしい。笑わないなら身に付けよう。そういう力。

【斎藤薫の美容自身 STAGE2】まとめ記事はこちら
齋藤薫 美の格言15

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